本文
鏡野町健康づくり条例(解説付き)
鏡野町健康づくり条例(解説付き)
前文
健康は、疾病や障害の有無にかかわらず、健やかに生き生きと暮らすために最も 基本となるものであり、心身の健康を確保し、生活の質を高め、生涯幸福な生活を送って行くことは町民の共通の願いである。
健康づくりは、本来町民一人ひとりが主体的に取り組んでいく課題であるが、それぞれの地域で生活習慣が異なり、多様な社会環境に置かれた個人の健康づくりを支えるためには、社会全体の取組みも欠かせない。
しかしながら、急速な高齢化の進展、疾病構造の変化などにより、町民を取り巻く環境は大きく変わり、疾病対策から介護予防まで一貫した施策の充実が求められるとともに、自立した生活が出来る健康寿命の延伸に向けて、世代に応じた生活習慣病の予防、こころの健康の保持など、健康づくりに関する新たな施策を講ずることが急務となっている。
このような状況の中で、町民が生涯にわたり、健やかで心豊かに暮らせる地域社会を実現するためには、それぞれが健康づくりに関する理解を深め、食生活の改善、運動の習慣化等を通じた健康づくりに主体的に取り組むとともに、地域交流や社会参加を通じて健康づくりができる環境を整備していくことが重要である。
ここに、健康づくりについての基本理念を明らかにしてその方向を示し、町民、地域団体、事業者、保健医療関係者及び町の協働により、町民の健康づくりに関する取組みを総合的かつ計画的に推進するため、この条例を制定する。
【解説】
この条例を策定した理由や背景、主旨等を町民に十分に理解して頂くため、条例の中の前文として示しています。
健康は長寿社会において、生涯住み慣れた地域や自らが望む地域で幸せを実感しながら生活していく上で不可欠となるものです。
健康づくりは一義的には町民一人ひとりの取組みに委ねられる部分が大きいものの、一方で働き方やライフスタイル等、それぞれの置かれた社会環境、生活環境及び自然環境によって健康への関心や健康づくりのために費やせる時間、利用できる施設が異なり、町民個々で取り組んでいくには限界もあることから、(地域)社会全体で支えて行く視点もかかせません。
鏡野町を概観してみると、町域面積が419.69平方キロメートルあり、岡山県の北部に位置する中で中山間地域等多様な生活環境を有していますが、多くの町民が死ぬまで生まれた地で生活し続けたいと思われている中、健康であるということがとても重要になって来ます。
一方で、本町における特定健診の受診率等(平成23年度鏡野町特定健診受診率34.4%:40歳から74歳まで)、いまだ低い水準で推移しており、今後より一層の啓発活動等健康づくりの取組みが必要と言えます。
また、本町が毎年行っている住民意識調査(アンケート)では、健康だと思う町民の割合が74.7%もあるものの、高齢者や障害者、子供など地域全体で支え合う福祉が充実していると思わないと回答した人が約4割、日頃から何らかの運動・スポーツを月に数回程度、あるいは全く行っていないと回答した人が7割以上もある回答になっています。
これらは、前述のように単に個人の取り組みだけでは健康づくりが進まない現状の一端を示していると考えることができます。
こうしたことから、町民一人ひとりの健康づくりを促進することを前提とした上で、健康づくりを保健衛生等の特定の分野、特定の人や団体だけの課題としてとらえるのではなく、(地域)社会共通の課題として考え、連携して個人の取組みを支える環境づくりを進めるためにこの条例を制定するものです。
(目的)
第1条 この条例は、町民の健康づくりに関し基本理念を定め、及び町の責務を明らかにするとともに、町民の健康づくりのための基本となる事項を定めること等により、町民、地域団体、事業者、保健医療関係者及び町の協働による町民の健康づくりのための施策を総合的かつ計画的に推進し、もって町民が生涯にわたり健やかで心豊かに暮らすことができる持続可能で活力ある地域社会の実現に寄与することを目的とする。
【解説】
最初に、この条例の目的を示しています。
町民が生涯にわたり健やかで心豊かに暮らすことができる持続可能で活力ある地域社会の実現という最終目的のために、鏡野町で生活する人や組織あるいは町が連携して健康づくりに取り組んでいく上での基本事項をこの条例で定めています。
また、町の責務の意味合いの中には、健康づくりに関しての必要な財政措置等を講ずることも含まれています。
(定義)
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
- 健康づくり 健やかで充実した生活を送るため、食生活、運動、休養、飲酒、喫煙、歯の健康の保持その他の生活習慣を改善し、心や身体の状態をよりよくしようとすることをいう。
- 地域団体 町内で活動を行う公共的団体および地域住民が自主的に参加し、その総意及び協力により住みよい地域社会をつくることを目的として構成された集団をいう。
- 事業者 他人を使用して町内で事業を行う者をいう。
- 保健医療関係者 町内で保健及び医療に関する職務に従事する者をいう。
【解説】
(第1号)
健康づくりは、主に一次予防(生活習慣を改善して健康を推進し、生活習慣病等を予防すること)の観点から生活習慣の改善を行うことにより、身体だけでなくこころの状態も良くすることを含むものです。
(第2号)
自治会、老人クラブ、婦人協議会、子供会、地域づくり協議会などを含む組織です。
(第3号)(第4号)については記述のとおりです。
(基本理念)
第3条 健康づくりは、次に掲げる事項を基本理念として行うものとする。
- 町民一人ひとりが自らの問題であることを自覚し、健康を管理する能力の向上を図るとともに、健康づくりの取組みを主体的に行うこと。
- 町、町民、地域団体及び事業者は、協働による健康づくりの推進に関し、それぞれの意思及び主体的な取組を尊重し、責任及び成果を分かち合い協働により行うこと。
【解説】
健康づくりに取り組んでいく上での基本となる共通の考え方を示したものです。
(第1号)
健康づくりは、町民一人ひとりが健康への意識を高め、自らの問題として主体的に取り組んでいくことが前提になることを明確にしています。
その際、健康診断や検診等により健康状態を定期的・客観的に把握するとともに、正しい情報に基づいた健康管理が必要であり、その上で年齢、性別及び健康状態等に応じた健康づくりの取組みを主体的に進めて行く必要があることを定めています。
(第2号)
健康づくりには、町民一人ひとりの主体的な取組みが必要となりますが、個人の力だけでは難しいため、ヘルスプロモーション(1986年にカナダのオタワで開催された世界保健機構(WHO)の会議で提案された概念)の考えに基づき「みんなが力をあわせる」ことや「健康を支援する環境づくり」を進めて行くことも必要となります。
個人の健康づくりに対して、社会全体で支援していく体制があることで個人を取り巻く環境が改善され、生活の質の向上を図ることができますが、その際、健康づくりがそれぞれの主体的な意識や取組みを前提とするものであることから、それを阻害することがないよう配慮していくことが大切であると考えています。
(町民の役割)
第4条 町民は、基本理念にのっとり、健康づくりに関する知識と理解を深め、積極的に健康診査及び健康診断並びに検診(以下これらを「健康診断や検診等」という。)を受けること等により自らの健康状態を把握し、自らの健康は自らで守るという意識を持ち、自らの健康状態に応じた健康づくりに主体的に取り組むよう努めるとともに、家庭、地域、職場、学校等その他において行われる健康づくりの推進に関する活動に参加するよう努めるものとする。
【解説】
健康づくりには、まずもって町民一人ひとりの取組みが必要であることから、自ら意識を持ち、正しく、客観的な情報に基づいて取り組んでいくことを町民の役割として位置づけるものです。
特に、健康診断や検診等を受け、客観的な所見を踏まえ、年齢、性別及び健康状態等それぞれの状況に応じて行われることが必要です。
その上で、家庭、地域、職場、学校等その他で行われる活動に参加することで、社会全体として支えあう取組みとなることを期待するものです。
また、条文の責務については努力義務であり、決して町民に強制するものではないことから、行政側から町民に対しての押しつけとならないよう、表題を「町民の役割」というやわらかい表現にしています。
(町の責務)
第5条 町は、基本理念にのっとり、町民の健康づくりに関する施策を総合的かつ計画的に策定し、推進しなければならない。
2 町は、前項に規定する施策を実施するにあたっては、その保有する施設等を積極的に活用するとともに、町民、地域団体、事業者、保健医療関係者等の意見を反映させるなど連携に努めるものとする。
【解説】
(第1項)
健康づくりの取組みを町の施策として位置づけるとともに、第2条(定義)で示した「健康づくり」でもあるように、食生活、運動、休養、飲酒、喫煙、歯の健康の保持その他の生活習慣全般に関わるものであることから、町内組織(課)の横断的な取組みを求めるものです。
(第2項)
健康づくりのための施策を総合的に実施するにあたって、町の保有する施設等を積極的に活用すること及び健康づくりの主体としての町民等の意見を反映させるための措置を講ずることを求めるものです。
「施設等」には、公民館等の施設に限ることなく、体育及びスポーツを目的として設置された施設及び土地を含みます。
また、町民等の意見を反映させるための措置の具体的な事例としては、健康増進法第8条第2項の規定に基づく「鏡野町健康づくり計画」や食育基本法第18条の規定に基づく「鏡野町食育・地産地消推進計画」を策定していく際の町民意見の反映等が考えられます。
また、計画の策定に限らず、健康づくりを推進する上で、「鏡野町健康づくり推進協議会」等を活用していくことも必要です。
(地域団体の役割)
第6条 地域団体は、基本理念にのっとり、その活動に当たっては、地域の健康づくりを推進するため、地域の特色を生かした運動その他健康づくりに関する活動に積極的に取り組むよう努めるとともに、町、町民、地域団体、事業者、保健医療関係者が実施する、健康づくりの推進に関する取組みに協力するよう努めるものとする。
【解説】
地域団体における取組みは、町民にとっての活動のきっかけになるとともに、身近に仲間ができることによる継続的な取組みへの効果が期待できることから、積極的な取組みを求めるものです。
また、地域におけるつながりや連帯感は、精神的な安定をもたらす要因のひとつと考えられることから、地域で活動が行われること自体に大きな意味があるといえます。
例えば具体的に考えると、未来希望基金活用の中で、各地域に設置されている「地域づくり協議会」が定める実施計画の中に、健康づくりに関する取組みを位置づけること等が想定されます。
「地域の特色」とは、その地域の持つ自然資源、運動施設等公共施設、年齢階層等をいいます。
また、町、町民、地域団体、事業者、保健医療関係者が連携した取組みを行うことにより、健康づくりの取組みが社会全体での取組みとなることを期待するものです。
(事業者の役割)
第7条 事業者は、基本理念にのっとり、当該事業者の行う事業に従事する者の受動喫煙の防止、健康診断や検診等の受診の促進及び休暇の取得の促進その他心身の健康に配慮した職場環境の整備に努めるとともに、町が実施する健康づくりの推進に関する施策に協力するよう努めるものとする。
【解説】
事業者は、労働安全衛生法により快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じ、働く者の健康を確保する必要があります。
ここでの規定は、こうした法律により義務づけのあるもののほか、受動喫煙の防止や健康診断(労働安全衛生法に定められている項目以外)を受ける機会の確保、休暇の取得促進、健康づくりのために事業者が積極的な役割を果たすことを求めるものです。
また、このような健康づくりにおける事業者の有する影響の大きさに鑑み、町が行う取組みに協力することも重要な役割であると考え、規定を設けています。
ここでは、法で使用されている「労働者」という表現はあえて用いず、対象を広げ「事業に従事する者」という表現にしています。
(保健医療関係者の役割)
第8条 保健医療関係者は、基本理念にのっとり、保健指導、健康診断、治療その他の保健医療サービスを町民が適切に受けられるよう配慮するとともに、健康づくりに関する普及啓発に努めるものとする。
【解説】
医師等は、町民の健康を、医療・保健分野の最前線で支えるという極めて重要な役割を有しています。
ここでは、医師等に、町民が安心して受診できる良質かつ適正な保健医療サービスを提供することや、町が実施する施策への協力を求めています。
また、健康づくりの推進にあたって、健康指導等における重要な役割を果たすことが期待されていることから、それぞれの業務において健康づくりに関する普及啓発に努めるよう定めています。
(計画の策定)
第9条 町は、健康づくりの推進に関する施策を総合的かつ計画的に実施するため、健康づくりの推進に関する計画(以下「健康づくり計画」という。)を策定するものとする。
2 健康づくり計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
- 健康づくりの推進に関する基本方針。
- 健康づくりの推進に関する目標。
- 前2号に掲げるもののほか、健康づくりに関する施策を総合的かつ計画的に実施する為に必要な事項。
3 町長は健康づくり計画を策定するときは、鏡野町健康づくり推進協議会の意見を聴くとともに、町民、地域団体、事業者、保健医療関係者の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならない。
4 町長は、健康づくり計画を定めたときは、速やかに、これを公表しなければならない。
【解説】
第5条において(町の責務)、町民の健康づくりに関する施策を総合的かつ計画的に策定し、推進しなければならないと定めましたが、具体的には、国で平成12年に「21世紀における国民健康づくり運動」(健康日本21)が策定され、平成15年に「健康増進法」が施行されたことなどを受け、旧奥津町では平成14年度に「健康奥津21」を、旧鏡野町では平成15年度に「健康かがみの21」を策定し、現在に至っています。
しかしながら、「21世紀における国民健康づくり運動」が24年度末で終了となったことから、平成25年度から新たな計画が策定(健康日本21(第2次))され、5つの基本的な方向の概略が平成24年7月10日に厚生労働省健康局長から示されました。
※ 5つの基本的な方向の概略
ア 健康寿命の延伸と健康格差の縮小
イ 生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底(NCD(非感染性疾患)の予防)
ウ 社会生活を営むために必要な機能の維持及び向上
エ 健康を支え、守るための社会環境の整備
オ 栄養・食生活、身体活動・運動、休養、飲酒、喫煙及び歯・口腔の健康に関する生活習慣及び社会環境の改善
こうした国の示す方向性から、鏡野町においても「健康かがみの21(第2次)」計画など策定していくことを掲げるものです。
また、意見反映についても第5条で解説しているとおりです。
(重点的配慮事項)
第10条 町は、健康づくりの施策を実施するに当たっては、次の各号に掲げる事項に配慮するものとする。
- 健全な食生活の知識の普及に関すること。
- 運動習慣の知識の普及及び運動のための環境の創出に関すること。
- 心の状態をより良く保つための知識の普及及び支援の充実に関すること。
- 喫煙による健康被害の知識の普及及び禁煙支援並びに受動喫煙の防止に関すること。
- 歯・口腔の健康づくりの知識の普及及び保健サービスの実施に関すること。
- 健康診断や検診等の受診率及びそれに基づく保健指導の実施率の向上に関すること。
【解説】
町が施策を推進するに当たって、主に配慮すべき事項を示すものです。
健全な食生活の知識の普及、年齢に応じた適切な運動習慣の普及とともに、運動を促進する町民の体制づくり、施設整備や運動を行いやすくするための環境づくり、メンタルヘルス対策の充実、喫煙による健康被害の知識の普及や禁煙希望者への禁煙支援、受動喫煙防止対策、歯磨きの習慣づくり等の歯及び口腔の健康づくりの知識の普及や歯科疾患の予防対策、そして、定期的・客観的に健康状態を把握し、それにもとづく健康づくりのための取組みを促進するため、特定健診等の受診率の向上のための取組みを進めることを内容とした規定となっています。
(町民、地域団体、事業者、保健医療関係者との協働の機会)
第11条 町は、町民、地域団体、事業者、保健医療関係者と協働して健康づくりを推進するため、次に掲げる機会を設けるものとする。
- 健康づくりに関して意見を交換する機会
- 健康づくりに関して学習する機会
【解説】
(第1号)
連携のきっかけづくりとともに、それぞれの取組みを有機的に結び付けることで、個々の取組みをより効果的、効率的なものとすることを目的にするものです。
(第2号)
それぞれが持つ情報や知識を共有することで、各主体の取組みを正しい情報、正しい知識にもとづいた、より効果的なものとすることを目的にするものです。
(地域団体、事業者、保健医療関係者に対する支援)
第12条 町は、健康づくりを推進するために必要があると認めるときは、地域団体、事業者、保健医療関係者に対し、財政的支援その他の必要な支援を行うことができる。
【解説】
町は、地域団体、事業者、保健医療関係者の健康づくりの取組みを促進させ、それによって鏡野町の健康づくりを推進していく上で効果があると認める場合には、これらの団体に対して財政的もしくはその他の支援を行うことができると規定しています。
これにより、それぞれの取組みをより一層推進するとともに、条例の目的を達成することを目指すものです。
(活動の公表等)
第13条 町は、町民、地域団体、事業者、保健医療関係者が行う健康づくりの推進に関する活動で、他の者が行う健康づくりの推進に関する活動に有益かつ先駆的な役割を果たすと認めるものについて、当該町民、地域団体、事業者、保健医療関係者の同意を得て、これを公表し、及び顕彰することができる。
【解説】
町は、有益かつ先駆的な役割を果たすと認める活動について、公表及び顕彰し、広く周知することができることとしています。
それにより、活動を行う主体の取組意欲を向上させるとともに、先駆的な取組を広く他の主体に知らせることで健康づくりの取組が効果的、効率的に広がって行くことを期待するものです。
もちろん、公表又は顕彰するに当たり、その対象者からの同意を得ることが必要であることは言うまでもありません。
(委任)
第14条 この条例に定めるもののほか、健康づくりに関し必要な事項は、町長が別に定める。
【解説】
この条例の規定を実際に働かせようとしたときに必要となる事項で、この条例に定められていない事項については、町長が定める旨を規定しています。
附則
(施行期日)
1 この条例は、平成25年12月20日から施行する。